住宅ローンは固定金利か変動金利か悩むところだ。総返済額が数百万の単位で変わってくるからだ。アベノミクスによって景気の回復基調がみられることから,変動金利の人は固定金利に借り換えてはといった内容の記事が目立つ。また,新たにローンを組む場合も,固定金利が安心でおすすめとの記事が多い。
しかし,本当にそうなのだろうか。どちらが最適かについては,借りる額や期間,収入に対する返済額,そして,貯蓄額などによって異なるはずだ。しかし,変動金利は固定金利に比べてリスクが高いので,変動金利はそれを承知の上で選択すべき,との論調がほとんどである。
実は,私自身一年ほど前に全期間固定金利から変動金利へ借り換えた。基本的に慎重派なので,固定金利が当たり前だと思っていたが,いろいろと情報収集するうちに,変動に比べて返済額がだいぶ高くなる固定金利を選択しいるのがばかばかしくなった。そして,自分自身で実験してみようと思うようになったのである。アベノミクスで日本の景気は回復基調にあるが,それでも,今のところ不安や後悔はない。実験結果はローンが終わるまでお預けだが,なぜ,変動金利にしようと考えたか,忘れないうちに,少し書いてみたい。
私が変動金利を選択した理由を一言でいえば,固定金利にだってリスクがあり,以下に述べる理由によって,変動金利のリスクは実はそう高くないかもしれない,と考えるようになったからである。
1.変動金利は金利がどんどん上昇すると返せなくなる?
「変動金利」という言葉から,金利が市場原理に従って勝手に上がるとの誤解が多い。しかし,変動金利は短期プライムレート(銀行が企業に貸し出す期間が1年未満の場合に指標となる金利で短プラともいう)に連動しており,この短プラは日銀の政策金利に(原則)連動しているため,急上昇することは考えずらい。
短プラを上げれば,企業はお金を調達しにくくなって景気回復に水を差すことになりかねない。逆に,日銀が政策金利を大きく上げる決断をするときには,景気が回復し,給料も増えているだろうから,返済額の上昇は負担にならないと考えるのが妥当だろう。
2.バブルのころは金利が8%にもなった。だからまたそうなるかもしれない?
バブルのころには金利が8%にもなったのだから,また,それくらいの金利になるかもしれない,という意見がある。しかし,この8%という数字だけを見て,そんなに高くなったら大変だ!と考えるのはあまりにも短絡的ではなかろうか。8%になるのと同時に,給料が笑いが止まらないほど増えていったらどうだろうか?ローンの返済などまったく困らないはずだ。
したがって,心配しなければならない事態は,今のような景気の状況で,ローン金利だけが8%になることがあるか,ではなかろうか。ローン金利は日銀の政策金利に連動することは上で述べた。今のような景気の中で,日銀がそのような利上げの判断をするとは考えにくい。
また,バブル期に金利が8%になった期間は実はあまり長くない。したがって,短期間の利上げであれば,貯蓄でカバーできる。固定金利と変動金利で返済額に大きな違いがあり,8%になるまでにはある程度の猶予があるとみるのが妥当なので,返済差額をリスクヘッジとして貯蓄しておけばよいだろう。
なお,短プラはこの20年余り低いままである。変動金利が実質”固定化”している。
3.固定金利は返済額が予定通り変わらないから安心だ。
固定金利では,確かに返済額が増えることは無い。だからといって安心といえるのだろうか。
まず,同じ借入額であれば,固定金利の方が返済額が何万も多くなる。収入が減った際に,最初に返済不能になるのは,返済額の大きい固定金利の方だろう。また,金利が高いと元金がなかなか減らない。例えば,10年後,職を失うなどの理由で返済できなくなったとしよう。固定金利は元金がなかなか減らないから,不動産の価値よりもローン残高の方が高く,借金だけが残る可能性が高い。一方,変動金利は,元金の減りが速く,毎月の返済額も少ないので貯蓄もできるかもしれない。その結果,不動産を清算しても手元に現金が残る可能性がある。
以上,要約すると次のようになる。
(1) 急激に金利上昇しないはず。今まで借りていた固定金利を変動金利が上回るのは当分先。ちなみに,私の場合,固定金利は変動金利の2倍以上。
(2) 金利が上昇するころには,景気が回復し収入も上がっていて,返済に困ることは無いだろう。
(3) 元金が多いこと自体リスクを抱えていることになるので,なるべく早いうちに元金を減らしたい。
そして,(1)~(3)に加えて,重要だったのは,固定と変動の金利差である。金利差が大きくない場合は,固定金利を選択していたであろう。
自分のシミュレーションでは,今後5年間金利が大きく上昇しなければ,この実験はほぼ成功することになっている。なお,人によって状況が異なってくるので,他人に変動金利をおすすめしているわけではない。
ローンが終わって,この文章をどんな気持ちで読み返すことになるだろうか。不安がないと言ったらうそになるが,同時に,楽しみでもある。
末尾に,固定金利おすすめ一辺倒の書籍が多い中で,固定金利のリスクも論じていて参考になった書籍があったので挙げておく。