VIC1001

| 日常 |

本日で2年生向け講義「計算機工学」が無事終了した。そこで,私のコンピュータとの出会いを少し書いてみたい。

定価69,800円で発売されたコモドールジャパンのVIC1001は,私が初めて手にしたマイコンだ。中学1年の冬だった。当時は,NECのPC9801(定価168,000円)がはやっていて,本当はこちらが欲しかったが,中学生にはとても手が出なかったのだ。VIC1001でも,中学生にとっては決して安くなく,親に頼み込んで買ってもらったのを覚えている。

VIC1001のメインメモリはたったの3.5kBしかなかったし,BASIC言語にも結構くせがあった。たとえば,PC9801ではカーソルの位置はLOCATE文で指定できたが,VIC1001では特殊文字をPRINT文で出力しなければならなかった。また,音を出したり,画面のモードを切り替えたりする場合には,POKE文でいちいちポートをたたかなければならなかった。ただし,そのおかげでマイコンのハードについても理解を深めることができた。

当時は,今のようにフリーソフトをネットからダウンロードしてすぐ実行するなど夢物語だった。社会人や大学生などお金のある人は,カセットテープで売られているソフト(当時3,000円くらいした)を買うこともできたが,貧乏中学生の場合は自分でプログラムを作るか,雑誌に掲載されているプログラムを打ち込むしかなかった。しかし,VIC1001はNECのPC9801やシャープのMZ-80Kに比べてマイナーな存在だったので,雑誌にあまりプログラムが載らず,国産マイコンユーザがうらやましかったのを覚えている。プログラムはマイコン雑誌I/OやBASICマガジン(ベーマガ)に掲載されることが多かった。

雑誌のプログラムを打ち込む時には,2歳下の弟を動員した。ゲームができるから,といえばたいてい手伝ってくれた。BASICだとどうしても動作が遅くなるので,ゲームの場合機械語のプログラムが多かった。16進数の羅列が何ページにもわたって掲載されているのである。それを,半日や一日かけて打ち込むのだが,VIC1001はよく熱暴走したので,あと少しで完成するという時に暴走!という悲劇に何度も見舞われた。印象に残っているゲームは,マイコン雑誌I/Oに載っていた「人類抹殺ゲーム」。ミサイルが縦横無尽に飛び交うゲームだったが,ありえないほど多量のミサイルが飛び交うので,かなりインパクトがあった。

VIC1001はCPUにモステクノロジーの6502を使っている。これは,モトローラのMC6800をモデルに設計されたもので,Apple IIに搭載されて一躍有名になった。初代ファミコンのCPUに使われていることから知っている人も多いだろう。クロック周波数は1MHzであるが,豊富なアドレッシングモードと工夫されたパイプライン構造で他の同程度のCPUに比べて高速に動作する。なお,MC6800をモデルに設計されているものの,バイトオーダはリトルエンディアンとなっている。エンディアンについては計算機工学で習いましたね。

なお,コモドールブランドでゲームを開発していたのがHAL研究所だ。そこのメインプログラマが,当時大学生のアルバイトで,いまの任天堂の社長である岩田聡氏なのだ。初代ファミコンに6502が使われたのも,ただの偶然ではないのかもしれない。Linuxの生みの親リーナス・トーバルズ氏も,最初に買ってもらったコンピュータがVIC-20なのだそうだ。ちなみに,VIC-20はVIC1001の海外での製品名である。実は,VIC1001は日本で設計・開発・製造されたマイコンとのこと。これまでずっと海外で設計製造されたものだと思っていたので,ちょっとした驚きである。

現在では,VIC-20のエミュレータが公開されていて,昔のゲームをWindows上で走らせることができるようだ。驚くことに,カセットテープに保存してたプログラムも読み込めるらしい。実家を探せばカセットテープが残っているかもしれない。暇ができたら試してみたい。

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